東京ブラスコンコード第16回演奏会
日時 2000年2月20日(日)14:00開演
場所 石橋メモリアルホール(東京・上野)
指揮 井上 謹次
賛助出演 東京パイプバンド(バグパイプ)
プログラム

マーチ「レーヴェンスウッド」(W. Rimmer)
グリーンスリーブス(Traditional / arr. G. Langford)
歌劇「サムソンとデリラ」よりバッカナール(C. Saint-Saens / arr. A. Smith)
コルネット・カリヨン(R. Binge)
ブリッツ −大空襲−(D. Bourgeois)
良き仲間との気晴らし(Henry VIII / arr. S. Roberts)
バグパイプとの共演:ゲスト<東京パイプバンド>
 Scotland the Brave,  Amazing Grace
カンタベリー・コラール(J. Van der Roost)
喜歌劇「スペードの女王」序曲(F. v. Suppe)

[アンコール]
恋のアランフェス(J. Rodrigo / arr. D. Barry)
マーチ「ミッド・ウェスト」(J. J. Richards / arr. D. Broadbent)

入場料 1,000円(小・中学生800円)

曲目の解説


●マーチ「レーヴェンスウッド」

リマーは、19世紀末から今世紀初頭にかけての金管バンド創生期に 活躍した作曲家・指揮者です。 特に「パンチネロ」や「コサック」等の行進曲と、 「マイ・オールド・ケンタッキー・ホーム」等のソロ曲が有名です。 曲名は恐らく地名と思われますが(レイヴンは大瓮、ウッドは森)、 詳しいことは不明です。


●グリーンスリーブス

大変よく知られたイングランド民謡です。 16世紀頃には既に民謡集に採譜されていたようですが、 イギリスの作曲家ヴォーン=ウィリアムスが歌劇「恋するサー・ジョン」 の中で使用し、更に「グリーンスリーブスの主題による変奏曲」を 発表し、世界中に広まりました。題名の「緑の袖」の解釈は色々あり、 『緑の袖の服を着た女性に振られた男の歌』とか 『軍服(袖が緑色)の男に振られた女の歌』とかいわれますが、 いずれにしても失恋の歌です。


●歌劇「サムソンとデリラ」よりバッカナール

「サムソンとデリラ」は「動物の謝肉祭」で知られる サン=サンーンス作曲の歌劇です。 旧約聖書・士師記に材を取り、ユダヤ人救済の英雄・サムソンと、 これを陥れようとするペルシャ人側の女スパイ・デリラとの 愛と裏切りの物語で、現在でも人気のある演目です。 終盤で、神から与えられた怪力をデリラの誘惑の為に失ったサムソンが、 邪神・ダゴンの神殿の柱に鎖で縛り付けられ、その前でペルシャ人の 神官達が熱狂的に踊る場面で用いられるのが「バッカナール」です。 この言葉は、ギリシャ神話の酒と狂乱の神・バッカスに由来すると いわれますが、エキゾチックなメロディと強烈なリズムが印象的な曲 です。この場面の後、神に懺悔したサムソンが怪力を取り戻して神殿の 柱を押し倒し、大神殿が群集もろとも崩れ去るクライマックス を迎えます。


●コルネット・カリヨン

ビンジはイギリスの軽クラシック作曲家で、 マントヴァーニー楽団の編曲者としても知られており、 「古きロンドン」等の吹奏楽作品も作曲しています。 この曲は金管バンドのオリジナル作品で、3人のコルネット奏者が 1つのメロディを交互に、まるで鐘が鳴り響く様に奏でます。 カリヨンは鐘を音階順に並べた鍵盤楽器で、ヨーロッパの 古い都市などに残っています。


●ブリッツ −大空襲−

1981年の全英チャンピオンシップ決勝の課題曲として 作曲されたものです。 この曲の表紙には、作曲者の言葉として次のように書かれています。
「ブリッツ(Blitz)とは辞書によれば、何らかの急激な、特に空からの、圧倒的な攻撃を意味する。それはドイツ語の Blitzkrieg −文字通り電撃戦を意味する−を短縮した形である。この作品は、技術力・神経とスタミナのテスト、要するに凄まじく狂暴な聴覚の"ブリッツ"である。この作品で指定されているテンポは、演奏者への単なる指標のつもりである。作曲者は特に、それを遵守しようと考えないでほしいと、心配している。」
作品は激しい序奏に始まり、不安な雰囲気を持った前半から劇的な後半へと続き、圧倒的な終結部で終わります。主部はそれぞれ2つの主題を中心に展開されますが、前半と後半の主題は、実は同じ物です。作曲者のブルジョワは1941年生まれの現代イギリス気鋭の作曲家で、金管バンド作品のみならず、交響曲や各種の協奏曲からオペラまで、幅広く活躍しています。


●良き仲間達との気晴らし

この曲はイギリス国王ヘンリー8世が作曲したものです。 ヘンリー8世は16世紀前半に在位し(チューダー朝)、 立憲君主制とイギリス国教会を成立させた国王として知られています。 一方では音楽好きとしても知られ、フェアファックスやコーニッシュ等 の作曲家を保護し、当時流行中のフランスのシャンソンを奨励する と同時に、自らも作曲を手がけました。 彼とその娘のエリザベス1世の元で、イギリス音楽は史上最高の 黄金時代を迎えたといわれます。 ルネサンス風の単純なリズムが、後半ロックの8ビートに変わる編曲が 面白いです。


●バグパイプとの共演

バグパイプはその名の通り、息を牛の皮などでできた袋(バッグ) に溜め、ひじで袋を押しながら奏でる管楽器です。 袋にはメロディを奏でるチャンター(1本、1オクターブ)と、 一定の音を出し続けるドローン(高音2本、低音1本) が取り付けられています。 音域と音階が限られている(半音が出せない)上に、 構造上メロディが途切れず、音量の調整ができないため、 一種独特の雰囲気を持っています。 かつてはヨーロッパ全土で使用されましたが(ローマ皇帝ネロも 愛好したと伝えられる)次第に廃れ、現在はスコットランドの 民族楽器のようになってしまいました。 特にスコットランドで使用されるハイランダー.パイプといわれる 楽器は、元来屋外での軍楽隊行進用に設計されたものなので、 大変大きい音が出ます。
1曲目の『アメージング・グレース』は、日本でも賛美歌 第2編167番「み恵みゆたけき」として知られている、美しい曲です。 作曲者は不明ですが、現在では賛美歌というより美しい民謡として 世界中で愛唱されています。尚、作詞の J. Newton は元奴隷船の船長で、 嵐で難破しかけたところを助かり、改心して聖職者となってこの曲の 作詞をした、という興味深い事実があります。
続く『スコットランド・ザ・ブレイブ(スコットランドの勇者)』は、 スコットランドを代表する曲で、誰でも一度は聞いたことがある でしょう。ヨナ抜き(ファとシが演奏されない)のメロディが 日本人にも親しみを感じさせます。 スコットランドでは、現在も準国歌的な歌として誇りを持って 歌われます。


●カンタベリー・コラール


ヴァン・デル・ローストは1956年生まれのベルギーの作曲家で、 吹奏楽から管弦楽まで幅広く活躍しています。 この曲は、ローストがベルギーのブラスバンド、ミドゥン・ブラバント の委嘱で作曲されたもので、彼がイギリスのカンタベリー教会を 訪問した際の印象を元に作曲したものです。 作曲者本人の手で吹奏楽版も書かれていますが、金管バンド版が オリジナルです。


●喜歌劇「スペードの女王」序曲

「軽騎兵」等で知られるスッペは、J. シュトラウスや オッフェンバックと同時期にウィーンで活躍した作曲家です。 主に喜歌劇(オペレッタ)の分野で活躍しましたが、 内容が軽いものであった為、今日まで上演され続けている作品は 僅かで、むしろ軽快な序曲のみがよく取り上げられます。 ロシアの文豪プーシキンの戯曲に材を取った「スペードの女王」 (チャイコフスキーも同じ戯曲でオペラを作曲している)は、 現在でも稀に上演されますが、やはり序曲のほうがよく演奏されて います。 接続曲形式ですが、スッペの特徴がよく出ており、 特に中間部のかわいらしさや、後半のカンカンの迫り上げ感は 独特のものと言えましょう。

あいにくの天候のなか、多数のご来場ありがとうございました。



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